日本でたった一人、「盲ろう」のパラトライアスロン選手。 「チーム鈴」の力で完走果たす

2016.06.25 14:22|情報
以下、Paraphoto より引用

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アクアブルーのゴールテープを、二人並んで両手を上げながら切っていく。
ピンク色のビブスの胸には、「盲ろう」の文字。
「危ない!」ゴールテープをきったことに気がつかずに走り続け、
ガイドが止めると、ガイドと強くハグをして喜びを分かち合う。

日本でただ一人、視覚と聴覚の両方に障害を持つ「盲ろう」のパラトライアスロン競技者、中田鈴子(49・京都府)が、
5月15日に開催された「横浜大会パラトライアスロン」に出場し、2年連続で完走を果たした。
「横浜パラトライアスロン」は、世界トライアスロンシリーズ横浜大会と同時に行われる国内大会で、
全国から障害のあるトライアスリート(トライアスロンの選手)が集まる。
横浜で行われるパラトライアスロンは、オリンピックのトライアスロン(スタンダードディスタンス)の半分の
「スプリントディスタンス」で行われる。
スイム750メートル、バイク20キロメートル、ラン5キロメートルを続けて行い、そのタイムを競う。

中田は耳が完全に聞こえず、目は向かい合った1メートル先の相手の顔が見える程度の「弱視ろう」と呼ばれる状態で、
視覚障害者のカテゴリーに出場した。視覚障害者は「ガイド」とともにスイム・バイク・ランの全てを行う。
大会当日は波のコンディションが悪かったが、1時間52分16秒でフィニッシュ。去年よりも約4分タイムを縮めた。
中田は「同じカテゴリーの選手の中で2位を目標にしており、その通りの順位がとれてとても嬉しい。
 波が悪く思うような泳ぎができなかったことが悔しいので、来年もまた挑戦したい」と、来年に向けて意欲を見せた。

中田が初めてパラトライアスロンの大会に出場したのは2013年のこと。
医師にスポーツを勧められ、健常者と視覚障害者が一緒にランニングをするスポーツサークル
「長居わーわーず」(大阪市)の練習会に参加したことがきっかけだった。
元々トライアスロンには憧れていた。運動が好きで、学生の頃は陸上部に所属していた。
「障害がなければトライアスロンをやりたかった」。そう思いながら、「盲ろうの自分に出来るわけがない」と諦めていた。

しかし、「長居わーわーず」の参加者の中に、パラトライアスロンの選手がいることを知った。
「盲ろうの私でもトライアスロンできるでしょうか」と、視覚障害者の選手とガイド、コーチで構成されている
「TRI6west」の大西健夫監督に尋ねると、「とにかく一緒にやってみましょう」と言われ、
初めて2人乗りの競技用自転車に乗った。風を切って走る感覚が気持ちよかった。
「ケガをしてもいい。やってみたい」。トライアスロンに挑戦する覚悟を決めた。

レースに出場するまでには様々な困難があった。
まず、大会に出場するためには同性のガイドを探さなければならなかった。
「TRI6west」のメーリングリストでガイドを募集したが、なかなか返事は来なかった。
「もう、諦めようかな」。そう思い始めたとき、現在のガイドである箱谷幸恵(48)から連絡が来た。
「私は手話もできないけれど、目を合わせながら、お手伝いしたい。一緒に頑張りましょう」と言われ、
「その言葉が本当に嬉しかった」。

ランでは、意思疎通の方法がないので、周りの状況も分からない。
初めての自転車練習では、うまくできずに転んだ。それでも、恐怖を感じたことはないという。
「箱谷さんは視覚障害者と伴走してきた経験があるから信用しているし、自転車は二人とも初めてペアを組むのだから
 転ぶのは当たり前としか思わなかった。練習するぞ!という気持ちしかなかった」
箱谷の一生懸命な姿にも支えられた。
練習は、毎週火曜日に行われるTRI6の練習会や土日の海でのスイム練習、ランニングなど、都合に合わせて行っている。

中田と箱谷だけでは、練習中に異常があっても、対処しきれない。
特に海の練習では、命に関わる事故に繋がる危険がある。
そんな二人を見守りながら支えているのが、千原寿一(58)だ。
「お二人には本当に感謝してるんです」。レース終了後、中田は箱谷や千原とハグをして感謝の気持ちを伝える。
箱谷と千原は、ボランティアで中田を支えている。その原動力は「鈴ちゃん(中田)の頑張る気持ち」だという。

ゴールは、箱谷にとっても緊張の糸が切れて安堵する瞬間だ。
「ゴールした後は、『やったね!練習は嘘をつかない。コツコツやってきた成果があったね』という気持ちで
 鈴ちゃんとハグをした。練習はコミュニケーションがとれないという面で難しさを覚えることもあるが、
 無事故で一緒にゴールできたときは何よりも嬉しい」と箱谷。

パラトライアスロンは、今年開催されるリオデジャネイロ大会からパラリンピックの正式種目になる。
これを機に多くの人が、この競技に関心を持つようになることが期待されている。
しかし、選手やガイドの環境はまだまだ厳しいのが現状だ。

箱谷は、「遠征や宿泊費は個人負担なので、一人ではサポートに限界がある。
 鈴ちゃんのガイドを増やすことも今後の課題」だという。

中田は「手、足、視覚など、様々な障害があってもできるのがパラトライアスロン。
私も最初は不安だったが、今ではトライアスロンをしているときが一番楽しい。
もっと色々な人にトライアスロンに挑戦してほしい」と笑顔を見せた。

障害のある選手にとって、ガイドとの出会いが重要になる。
選手とガイドが目標を持って競技を続けていくには、ガイドの金銭面の負担なども、考えていく必要がある。
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