ろう者の祈り(1)会社の飲み会は、ろう者を孤独にする

2017.03.20 13:06|情報
以下、朝日新聞DIGITAL より引用

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東京、冬晴れの2月の午後。市民ランナーでにぎわう皇居のまわりに、岡部祐介(29)の姿があった。

数々の大会でメダルをとってきた短距離ランナー。そして、「ライフネット生命」の社員。
仕事は人事総務と、競技による会社のPR。会社から近いので、ときどき、ここを走る。

世の中は、オリンピックやパラリンピックの話題でにぎわう。でも、岡部には関係ない。なぜなら、彼は「ろう者」だから。

「デフリンピック」
聴覚障がい者は、この、別の大会に参加する。岡部は、こんどの夏の大会をめざしている。
〈よし、行こう〉。岡部は静かに走りはじめた。

    ◇

秋田県生まれ。小学校は聴者といっしょで、口の動きを読む技を身につけた。
友だちもいたけれど、ひどい悪口も言われた。がまん、がまん。もう限界と、中2でろう学校へ。
陸上に出会って猛練習。聴覚障がい者が通う筑波技術大で機械を学びつつ、ろう者の陸上界で頭角をあらわす。

2012年、大学での勉強が生かせる有名メーカーに入社した。ここは、ろう者の雇用実績があった。

配属先の部長は、ほぼ残業なしにして練習時間を確保してくれた。
同僚らは、岡部の「情報保障を」という願いに応えてくれた。
会議でのやりとりをその場で活字にし、ITでの雑談も活字にしてくれたのだ。

その年あったカナダでの世界ろう者陸上、岡部は4×400メートルリレーで銅メダルをとった。
翌13年、ブルガリアの首都ソフィアであったデフリンピックで、同じ種目で6位になった。

けれど、昨年春、大企業につきものの組織変更で、岡部の異動が決まった。
上司が代わる、同僚が代わる。支援が続くのか、陸上で上を目指せるのか。悩んだ末、会社を去った。

皇居のまわりは車、車。でも、岡部に騒音はない。
〈僕は走る。迎えてくれた新天地のためにも〉

    ◇

ライフネット生命にとって、岡部は初のろう者社員だ。
陸上も仕事なので、岡部は、午前中は練習に打ち込み、午後、人事総務の仕事をしている。

職場では情報保障をしてくれている。毎週の朝礼で、全社員が手話を勉強してくれている。
昨年夏の世界ろう者陸上のリレーで銀メダルを取ると、みんな大喜びしてくれた。

岡部は、会社の飲み会にできるだけ顔を出している。日ごろの感謝を言いたいし、会社員には人間関係も大切だからだ。
だが、会社の飲み会は、ろう者を孤独にする。

一対一なら口の形で何を言っているか分かる。けれど、飲み会では、口、口、口。
あっちで笑い、こっちでカンパーイ。何が何だか分からないのだ。

岡部は、おおぜいの中のひとりぼっち、を感じる。
たまに、近くの社員が気づいて筆談で教えてくれるので、つらさを何とか乗り越えている。

岡部は皇居一周、約5キロを走り終えた。いま自分にできることは競技で結果を出すことだ。
こんどのデフリンピックは、7月、場所はトルコのサムスン市。
〈日本代表になってメダルをとる。仕事でも輝く。ぼくは、ろう者の「希望」になる!〉

    ◇

岡部は、きわめて恵まれている。職場は情報保障があるし、温かい。けれど、多くのろう者は職場で苦しんでいる。
ある若いろう者は、希望に満ちて社会人になったのに……。

昨年3月に連載した「ろう者の祈り」につづき、今回は、職場で出来ることを考える。


■ろう者

生まれつき耳が聞こえないか、言語を聞いて身につける幼少期に聴力を失った人。
手話を言語として使う人は、中途失聴者もふくめて国内で10万人ほどとされる。
ふつうに聞こえる人は「聴者」という。
「健聴者」ということもあるが、「聞こえること=健康」「聞こえないこと=不健康」ではないので、違和感をもつ人も多い。
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